ドーナツと宿題の日常生活-シグマハーモニクス
2008/12/26
18:53/Fri
シグマハーモニクスの小説です。
シグマとネオン。「序曲」前の風景。
シグマとネオン。「序曲」前の風景。
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『<鍵>に選ばれし青年少年による一つの談義』
2008/03/16
17:39/Sun
<ネズミの王国>さんと<最後の幻想>さんのコラボレートによるゲームより。
イメージは2の後。
*************************
「そういえば、まだクリアする前に出たんだったなー」
金髪の少年は、コントローラーを握り締めながら呟いた。
同時に巻き起こる、爆発の電子音とミッションクリアを告げるファンファーレ。
うっかりと紛れてしまいそうな小さな声を、しかし、側の椅子に腰掛けている銀の髪をした青年は聞きとめていた。
手元に開いた本から、少年へと顔をあげる。
「何がだ?」
「俺たちが、島から旅に出たの。そーいや、このゲーム、クリアの直前だったんだよなーって、思って」
少年はテレビ画面から目を離さず、答えた。
つられ、青年も画面を見る。独り部屋にしては少し大きめなテレビ一面を、爆発の光、レーザー光線の紫や、ショットの紅色が、鮮やかに彩っている。
さっきクリアしたばかりだと思ったのだ、どうやらもう次のミッションを始めていたらしい。
中央にプレイヤー……つまり金髪の少年が操る赤い機体があり、時に回転をつけながら、白く光る光弾を敵にぶつけていた。
青年にとっても、見覚えのある映像。
それもそのはず。ここは青年の部屋であり、少年が遊んでいるのは青年所有のシューティングゲームなのだから。
青年が本を閉じ、記憶をたどる。
それは、一年とちょっと前。
世界の広さを知らずに、包まれた穏かさを退屈にも似た感覚で捕らえていた自分と、まだ幼さを持っていた少年が、今と同じようにテレビ画面に向かい合っていた。
発売されたばかりのこのシューティングゲームをクリアしてみせて、少年が悔しがっている。
― なんでっ?! なんでそんなに軽々クリア出来るんだよっ。
― 慣れだな、要は。お前もやるか?
― もっちろん! クリアタイム、抜いてやるからな!
まばたきすら忘れそうな程に画面に食い入る少年に、青年はそんなに熱くなるなよ、と笑ってみせた。
少年の真っ直ぐさをそっと羨みながら。
今、目の前にいる少年と、過去の面影にある少年がぶれて重なる。
振り向く笑顔には、変わらない真っ直ぐさと、過去には無い逞しさ。
「あとちょっとで終わるっていうのに、全然クリア出来ないし。その上、イカダ作り始めた頃だったから、そっちにも時間とられちゃうしで、悔しい思いしたんだよなー」
「何言ってんだ。その後、俺の部屋に来て、遅くまでゲームやっていったろう。しかも、寝不足になって、材料集めをサボるくらいに」
「そ、そんなこと無いって。ちゃんと俺だってやったってばっ!」
わたわたと、コントローラー片手に少年が弁解を始めた。波立つコントローラーの接続線がゲーム機本体とぶつかり、がつがつ音を立てている事に気が向いていない辺り、少年の動揺が分かろうというもの。
そんな現象を目にせずともお見通しな青年は、銀に伸びた前髪を軽く書き上げながら口元を上げてみせた。
「集めた材料、俺とお前、どっちが多いか見比べてみるか?」
「……………うううう」
呻いて反論を止める少年。どうやら、自分でも材料数の差は自覚しているらしい。
再び画面へ視線を戻す仕草は、すねたそれに近い。とがった唇からは、何やら小声の文句がこぼれている。
やれやれ、と青年は音無く肩をすくめた。彼としては、別に数で競おう等の思いは無く、純然たる事実を告げただけに過ぎない。
前ならば、先立った競争心に埋め尽くされただろうけれど。
先程も辿った過去への記憶に思いを馳せつつ、さて、どうやって曲がってしまった親友の気分を治そうかと、考える。
だが、それも瞬き一つの間で終わった。少年が、文句ではない口調でぽつりと呟いたのだ。
「さっきから不思議なんだけどさ」
「ん?」
促しと疑問、両方混ぜた青年の言葉に、少年は先程の口調のまま、続ける。
「今、やってるステージ、前に全然クリアできなかったところなんだ」
青年の視線が、少年からテレビ画面へと移動する。
表示されるのは、ラストステージの中の一つ、中盤に差し掛かった辺りだろうか。
三度辿る過去の記憶の中で、確かに少年が苦戦していた場所だ。
だが、今少年の動かす機体は、とてもスムーズかつ的確に敵機体を落とし、前へ進んでいる。
これ覚えてる? との問いかけに、青年は頷いた。
「お前が徹夜で頑張っていたステージだな」
「うん、そう。指が追いつかなくて、目が疲れて。なのに、全然クリアできなかったとこ」
なんだけどさ。
ステージ中盤のボスをあっさり下しながら、少年が振り返った。
「今やると、すごーく簡単なんだよ。なんでだろ?」
青年の息が、ひゅっと高い音を立てて飲み込まれた。
それは、青年にも覚えのあることで、更に言えば理由にもたどり着いている現象で。
「身体能力の、向上」
枯れ果てた場所を通る風のような、青年の声。
はい? と分かっていない少年は、小首をかしげて見つめてくる。
心の奥底まで透かすような、真っ直ぐな瞳で。
「一年間と少し。お前は命のやり取りをしてきた。襲う敵を見つけ、素早く体を動かし、対応する」
あ。洩れた言葉に、少年はこの一年の記憶を走馬灯のように蘇らせた。
鍵の剣を分身として振るい、仲間と共に闇に対峙した一年と少し。
そしてそれは………この親友と故郷に帰るための戦いだった。
「素早く動かなければ、命を落とす。極限まで身体能力を高めなければいけない状況にいたお前にとって、普通のゲーム設定の速度じゃ、遅すぎるように感じるんだろう」
そして、その状況下に追い込んでしまったのは、他ならぬ青年自身だった。
枯れた喉を通る声は、彼自身が驚くほど平然としたもの。
だが、少年が、青年の名を呼んだ。
伸ばされた手のひらが、青年のそれを掴む。
無理やりに握るよう割り込んできた少年の手に、赤いものが……青年が握りすぎて内よりが流れ出てしまった血が……うつる。
― それ以上言うな。
少年の青い瞳が、青年の瞳を貫く。たまらず、青年は瞳を伏せた。
握り合わさった手は、一度少年が力を強く込め……ゆっくりと離れていく。
「そっかー。ってことは、これから簡単にゲームクリアが出来るようになるってことかなー?」
のほほん。そんな形容をしたくなる口調が、少年から掛けられた。
顔を上げれば、昔から変わらない笑顔が、そこにある。
「ああでも、簡単にクリア出来ちゃうとつまらないか。ゲームで遊べなくなるなぁ」
戯れに弾んだ言葉で、どうよ? と問いかける少年。
青年はしばし彼を……まるで晴れた大空を見上げるような眩しさで……見つめ、大きく息を吸い込んだ。
吐いた息を、ため息にも似せて。
「……大丈夫だ。この世には上級者モードというのがあるだろ。そんな風に余裕をかますと、あっという間に腕が落ちるぞ」
「あ、ひでぇ。自分だって、上級者モード苦戦してたくせに」
「数日前、暇つぶしにやったらクリアしたぞ」
「いつのまにーーっ!」
うわぁ、負けてらんないっ。と少年が叫び、またテレビ画面に向かい始めた。
重く、胸の痛い空気が部屋から霧散していく様を肌で感じ、ああ、と青年が苦笑に交えて感嘆する。
本当に、この少年には助けられている。この身だけでなく。心までもが。
この旅で、得られた最大の物は、身体能力でも、戦闘能力でも、知識でもなく。
少年たちと硬く繋ぎ直すことが出来た、絆に違いない。
とうとうエンディングにたどり着いたゲーム画面は、キャラクターの笑顔で彩られた。
再び、旅に出ようと、楽しげに話すキャラクターたち。
その笑顔の功労者たる青年の親友は、達成感に包まれた表情で、画面を見つめた。
「ねえ……」
「ん?」
「また、旅したいな」
「そうだな」
「今度は、ただ、楽しい旅を」
「ああ」
「旅で知り合った友達に、会いに行く、楽しい旅を」
「ああ」
振り返る少年と、視線を合わせる青年。
くしくも、ゲームのキャラクターたちと同じ姿勢になり。
頬を綻ばせて、口を開いた。
― 楽しみだね。
と。
― <more>にあとがき
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イメージは2の後。
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「そういえば、まだクリアする前に出たんだったなー」
金髪の少年は、コントローラーを握り締めながら呟いた。
同時に巻き起こる、爆発の電子音とミッションクリアを告げるファンファーレ。
うっかりと紛れてしまいそうな小さな声を、しかし、側の椅子に腰掛けている銀の髪をした青年は聞きとめていた。
手元に開いた本から、少年へと顔をあげる。
「何がだ?」
「俺たちが、島から旅に出たの。そーいや、このゲーム、クリアの直前だったんだよなーって、思って」
少年はテレビ画面から目を離さず、答えた。
つられ、青年も画面を見る。独り部屋にしては少し大きめなテレビ一面を、爆発の光、レーザー光線の紫や、ショットの紅色が、鮮やかに彩っている。
さっきクリアしたばかりだと思ったのだ、どうやらもう次のミッションを始めていたらしい。
中央にプレイヤー……つまり金髪の少年が操る赤い機体があり、時に回転をつけながら、白く光る光弾を敵にぶつけていた。
青年にとっても、見覚えのある映像。
それもそのはず。ここは青年の部屋であり、少年が遊んでいるのは青年所有のシューティングゲームなのだから。
青年が本を閉じ、記憶をたどる。
それは、一年とちょっと前。
世界の広さを知らずに、包まれた穏かさを退屈にも似た感覚で捕らえていた自分と、まだ幼さを持っていた少年が、今と同じようにテレビ画面に向かい合っていた。
発売されたばかりのこのシューティングゲームをクリアしてみせて、少年が悔しがっている。
― なんでっ?! なんでそんなに軽々クリア出来るんだよっ。
― 慣れだな、要は。お前もやるか?
― もっちろん! クリアタイム、抜いてやるからな!
まばたきすら忘れそうな程に画面に食い入る少年に、青年はそんなに熱くなるなよ、と笑ってみせた。
少年の真っ直ぐさをそっと羨みながら。
今、目の前にいる少年と、過去の面影にある少年がぶれて重なる。
振り向く笑顔には、変わらない真っ直ぐさと、過去には無い逞しさ。
「あとちょっとで終わるっていうのに、全然クリア出来ないし。その上、イカダ作り始めた頃だったから、そっちにも時間とられちゃうしで、悔しい思いしたんだよなー」
「何言ってんだ。その後、俺の部屋に来て、遅くまでゲームやっていったろう。しかも、寝不足になって、材料集めをサボるくらいに」
「そ、そんなこと無いって。ちゃんと俺だってやったってばっ!」
わたわたと、コントローラー片手に少年が弁解を始めた。波立つコントローラーの接続線がゲーム機本体とぶつかり、がつがつ音を立てている事に気が向いていない辺り、少年の動揺が分かろうというもの。
そんな現象を目にせずともお見通しな青年は、銀に伸びた前髪を軽く書き上げながら口元を上げてみせた。
「集めた材料、俺とお前、どっちが多いか見比べてみるか?」
「……………うううう」
呻いて反論を止める少年。どうやら、自分でも材料数の差は自覚しているらしい。
再び画面へ視線を戻す仕草は、すねたそれに近い。とがった唇からは、何やら小声の文句がこぼれている。
やれやれ、と青年は音無く肩をすくめた。彼としては、別に数で競おう等の思いは無く、純然たる事実を告げただけに過ぎない。
前ならば、先立った競争心に埋め尽くされただろうけれど。
先程も辿った過去への記憶に思いを馳せつつ、さて、どうやって曲がってしまった親友の気分を治そうかと、考える。
だが、それも瞬き一つの間で終わった。少年が、文句ではない口調でぽつりと呟いたのだ。
「さっきから不思議なんだけどさ」
「ん?」
促しと疑問、両方混ぜた青年の言葉に、少年は先程の口調のまま、続ける。
「今、やってるステージ、前に全然クリアできなかったところなんだ」
青年の視線が、少年からテレビ画面へと移動する。
表示されるのは、ラストステージの中の一つ、中盤に差し掛かった辺りだろうか。
三度辿る過去の記憶の中で、確かに少年が苦戦していた場所だ。
だが、今少年の動かす機体は、とてもスムーズかつ的確に敵機体を落とし、前へ進んでいる。
これ覚えてる? との問いかけに、青年は頷いた。
「お前が徹夜で頑張っていたステージだな」
「うん、そう。指が追いつかなくて、目が疲れて。なのに、全然クリアできなかったとこ」
なんだけどさ。
ステージ中盤のボスをあっさり下しながら、少年が振り返った。
「今やると、すごーく簡単なんだよ。なんでだろ?」
青年の息が、ひゅっと高い音を立てて飲み込まれた。
それは、青年にも覚えのあることで、更に言えば理由にもたどり着いている現象で。
「身体能力の、向上」
枯れ果てた場所を通る風のような、青年の声。
はい? と分かっていない少年は、小首をかしげて見つめてくる。
心の奥底まで透かすような、真っ直ぐな瞳で。
「一年間と少し。お前は命のやり取りをしてきた。襲う敵を見つけ、素早く体を動かし、対応する」
あ。洩れた言葉に、少年はこの一年の記憶を走馬灯のように蘇らせた。
鍵の剣を分身として振るい、仲間と共に闇に対峙した一年と少し。
そしてそれは………この親友と故郷に帰るための戦いだった。
「素早く動かなければ、命を落とす。極限まで身体能力を高めなければいけない状況にいたお前にとって、普通のゲーム設定の速度じゃ、遅すぎるように感じるんだろう」
そして、その状況下に追い込んでしまったのは、他ならぬ青年自身だった。
枯れた喉を通る声は、彼自身が驚くほど平然としたもの。
だが、少年が、青年の名を呼んだ。
伸ばされた手のひらが、青年のそれを掴む。
無理やりに握るよう割り込んできた少年の手に、赤いものが……青年が握りすぎて内よりが流れ出てしまった血が……うつる。
― それ以上言うな。
少年の青い瞳が、青年の瞳を貫く。たまらず、青年は瞳を伏せた。
握り合わさった手は、一度少年が力を強く込め……ゆっくりと離れていく。
「そっかー。ってことは、これから簡単にゲームクリアが出来るようになるってことかなー?」
のほほん。そんな形容をしたくなる口調が、少年から掛けられた。
顔を上げれば、昔から変わらない笑顔が、そこにある。
「ああでも、簡単にクリア出来ちゃうとつまらないか。ゲームで遊べなくなるなぁ」
戯れに弾んだ言葉で、どうよ? と問いかける少年。
青年はしばし彼を……まるで晴れた大空を見上げるような眩しさで……見つめ、大きく息を吸い込んだ。
吐いた息を、ため息にも似せて。
「……大丈夫だ。この世には上級者モードというのがあるだろ。そんな風に余裕をかますと、あっという間に腕が落ちるぞ」
「あ、ひでぇ。自分だって、上級者モード苦戦してたくせに」
「数日前、暇つぶしにやったらクリアしたぞ」
「いつのまにーーっ!」
うわぁ、負けてらんないっ。と少年が叫び、またテレビ画面に向かい始めた。
重く、胸の痛い空気が部屋から霧散していく様を肌で感じ、ああ、と青年が苦笑に交えて感嘆する。
本当に、この少年には助けられている。この身だけでなく。心までもが。
この旅で、得られた最大の物は、身体能力でも、戦闘能力でも、知識でもなく。
少年たちと硬く繋ぎ直すことが出来た、絆に違いない。
とうとうエンディングにたどり着いたゲーム画面は、キャラクターの笑顔で彩られた。
再び、旅に出ようと、楽しげに話すキャラクターたち。
その笑顔の功労者たる青年の親友は、達成感に包まれた表情で、画面を見つめた。
「ねえ……」
「ん?」
「また、旅したいな」
「そうだな」
「今度は、ただ、楽しい旅を」
「ああ」
「旅で知り合った友達に、会いに行く、楽しい旅を」
「ああ」
振り返る少年と、視線を合わせる青年。
くしくも、ゲームのキャラクターたちと同じ姿勢になり。
頬を綻ばせて、口を開いた。
― 楽しみだね。
と。
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